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パラメータ特許のサポート要件に関する裁判例(第8回)

1.はじめに
 「パラメータ特許のサポート要件に関連した裁判例」の第8回目として、『知財高裁平成20年(行ケ)第10065号 「審決取消請求事件」※1』を取り上げます。
 今回は、サポート要件を満たしていると判断された事例です。

※1 知財高裁平成20年(行ケ)第10065号 審決取消請求事件 全文

2.本件特許の内容(特許請求の範囲の記載)
 【請求項1】
 フェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源として製造され、直径が0 . 0 1 ~ 1 mmであり、ラングミュアの吸着式により求められる比表面積が1 0 0 0 m 2 / g 以上であり、そして細孔直径7 . 5 ~ 1 5 0 0 0 nmの細孔容積0 . 2 5 m L / g 未満である球状活性炭からなるが、但し、式( 1 ) :
  R = ( I 1 5 - I 3 5 ) / ( I 2 4 - I 3 5 )    ( 1 )
〔式中、I 1 5 は、X 線回折法による回折角( 2 θ ) が1 5 ° における回折強度であり、I 3 5 は、X 線回折法による回折角( 2 θ ) が3 5 ° における回折強度であり、I 2 4 は、X 線回折法による回折角( 2 θ ) が2 4 ° における回折強度である〕
で求められる回折強度比( R 値) が1 . 4 以上である球状活性炭を除く、
ことを特徴とする、経口投与用吸着剤。

3.本件特許の内容
 (3.1)明細書の記載
 【0 0 2 4 】
 ・・・・・(略)・・・・・。
 なお、本発明による経口投与用吸着剤として用いる球状活性炭又は表面改質球状活性炭においては、一層優れた選択吸着性を得る観点から、細孔直径7 . 5 ~ 1 5 0 0 0 n m の細孔容積が0 . 2 5 m L / g 未満0 . 2 m L / g 以下であることが好ましい。

表1

表2

 (3.2)明細書の記載の説明
 上記の【表1】には、実施例1~4の細孔容積が0.04または0.06mL/gであることが示されています。
 さらに、上記の【表2】には、実施例1~4の選択吸着率が2.6~4.7であることが示されています。
 すなわち、「細孔容積が0 . 2 5 m L / g 未満であると優れた選択吸着性を得ることができること」をサポートするデータは、細孔容積が0.04及び0.06mL/ gである場合のデータのみです。

4.裁判所の判断(抜粋)
(4) サポート要件について
   ・・・・・(略)・・・・・。
 ところで,本件特許明細書には,当初明細書の表1,2と同様の表が記載されており(段落【0047】,【0049】),細孔直径7.5~15000nmの細孔容積が0.42mL/gの場合に,選択吸着率が2.1と比較的に劣っていることが示されており(なお,実施例としてみた場合に,回折強度比(R値)が1.4以上であるか否かを重視する必要がないことは,取消事由1に関して説示したとおりである。),また,甲5公報には,
・「・・・・・(略)・・・・・」(段落【0007】)
として,細孔容積が小さすぎると毒性物質の吸着能に支障がある等,細孔容積の大小により選択吸着率が変化し得る旨の知見が開示されていることが認められ,このような知見は,本件出願日(平成15年10月31日)当時公知の技術であったと認めることができる。
 そうすると,本件特許明細書における前記実施例の記載に加え,選択吸着能は,(細孔容積が極小の場合を除き)その減少に応じて漸次発現する特性がある旨の上記知見を考慮すれば,当業者はこれにより優れた選択吸着率の達成を認識することができるから,本件特許請求の範囲の記載は,本件特許明細書における詳細な説明に記載したものであるということができる。
ウ(ア)  これに対し原告は,本件特許発明に係る細孔容積が明確な数値で限定されていることをもって,それが臨界的意義を有することは明らかであるとして,かかる臨界的意義について記載のない本件特許明細書には記載不備がある旨主張する。
 しかし,前記(3)イのとおり,本件特許明細書には,炭素源に係る発明特定事項以外の発明特定事項について当業者が適宜の設定をすることが可能であることを示唆する記載があり,しかも,選択吸着能は,(細孔容積が極小の場合を除き)その減少に応じて漸次発現する特性がある旨の知見が公知であることを併せ考慮すれば,当業者は,本件特許発明の規定する細孔容積の条件について,それ自体厳密な意味における臨界的な意義を有するというよりも,選択吸着率を優れたものとするために孔径の大きな細孔を少なくすべきことを表現し,そのための一つの目安として「0.25mL/g」との数値を規定したものとして理解することができるから,明細書の記載上,殊更に上記数値の意義が明らかにされていないとしても,当業者において本件特許発明の課題を解決できることについて認識できないということはできない。
 したがって,この点に関する原告の主張は採用することができない。
(イ)    ・・・・・(略)・・・・・。
(5) 以上のとおり,本件特許の明細書が,本件発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないということはできないし,本件特許の明細書に特許を受けようとする発明が記載されていないということはできないから,取消事由2に関する原告の主張は理由がない。

5.考察
 本件特許発明の特許請求の範囲(請求項1)では、「細孔容積が0 . 2 5 m L / g 未満である」と数値限定していますが、明細書には、細孔容積が0 . 2 5 m L / g近傍のデータがなく、臨界的意義は記載されていません。
 そして、原告は、細孔容積が明確な数値で限定されているために、その数値の臨界的意義について明細書に記載されている必要があると主張しました。しかし、裁判所は、細孔容積を少なくすべきことを表現する一つの目安として「0.25mL/g」との数値を規定したものと理解できるとして、サポート要件を満たすと判断しました。
 数値限定がされているからといって必ず臨界的意義を有する必要があるというわけではなく、数値限定が目安として用いられることがあるため、その数値の意義を検討した上で、臨界的意義の記載が必要かどうかを判断する必要があると考えます。


弁理士 宮本昭一

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