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進歩性について (6) 最近の裁判例(平成21年(行ケ)第10080号)

1.はじめに
 進歩性に関する最近の裁判例として、平成21年(行ケ)第10080号審決取消請求事件を紹介します。
 本件は、拒絶査定不服審判の審決が取り消された事例です。

2.本件補正発明の内容
a)ほぼ薄板状で、第1側部、第2側部、第1端部と第2端部を有する長手軸、この長手軸と平行に伸び、第1端部と第2端部で終焉する第1縁部と第2縁部、及び、前記第1端部と第2端部のほぼ中心において前記第1縁部および前記第2縁部よりも幅の狭いくびれ部を有する可撓性材料からなる少なくとも1つの連続層と、
b)発熱組成物を含む複数のヒートセルであって、各ヒートセルは隔離されると共に可撓性材料からなる前記少なくとも1つの連続層に固定されるか、または前記少なくとも1つの連続層の内部に固定され、各ヒートセルは、前記長手軸に対してほぼX字型に隔離配設される、複数のヒートセルと、
c)前記第1端部と前記第2端部あるいはこれらの近傍に配設され、使用者の身体に温熱身体ラップを取り外し可能に取り付けるための手段とを有する一体積層構造体を備え、前記取り付け手段は、確実な初期および長期的取り付けや取り付け直しを可能にし、皮膚から簡単にかつ痛みのない取り外しができ、前記ラップの取り外し後に皮膚にほとんど残留しない、使い捨て温熱身体ラップ。

(本件【図1】)

本件【図1】

  10…温熱身体ラップ、
  11…第1端部
  12…第1側部
  13…第2端部
  14…第2側部
  16…ヒートセル
  17…第1縁部
  19…第2縁部
  21…長手方向軸21

3.本件補正発明と引用発明1との相違点
 本件補正発明の各ヒートセルは、長手軸に対してほぼX字型に隔離配設されるのに対して、引用発明1のヒートセル(セル16)は、隔離配設されるものの、X字型の配設ではない点。

(引用発明1 Fig.1)

引用発明1 Fig.1

4.本件審決の判断
 引用発明1において、その使用目的からみて、使用者が装着している時、使用者の身体又は各部位のさまざまな領域の運動に順応することは、当然に要求される事項と認められるところ、そのような目的の配置として、X字型の配設は、従来周知(参考例2の図4、5、【0013】)の技術であり、それぞれが隔離配設される引用発明1においても、運動に順応する周知の配置を排除する格別の事情は認められない。してみれば、引用発明1に周知の技術を適用して相違点2に係る本件補正発明の発明特定事項のようにすることは当業者が容易に想到し得たことである。

(参考例2【図4】、【図5】)

参考例2【図4】、【図5】

  1…サポータ
  2…皮膚接触区層
  11…不織布層
  32…電熱片(電熱線)
  43,44…粘着テープ

5.裁判所の判断
 参考例2に示された関節部位に適用されるサポータにおいて、X状になっているのは、関節部分に使用するサポータの形状であり、電熱片(電熱線)そのものがX状に布設されているわけではない。そして、参考例2のサポータの使用方法としては、X状に裁断されたサポータの交点で関節を覆い、関節を挟んだ各片同士を接続することにより、サポータを身体に装着するもの、具体的には、例えば肘に装着する場合、肘の外側にサポータにおけるX状の交点をあてがい、上腕側、下腕側にそれぞれ位置する2つの片同士を、互いに腕に巻き付けて上腕側片同士、下腕側片同士を相互に接続することにより、肘に装着するものと認められるのである。
 参考例2に示されたサポータは、上記のように装着することにより、肘の折り曲げ部内側にはサポータ片が存在しないため、肘を屈伸しても、サポータが障害とならないことから、参考例2のサポータは、活発に活動する関節部位の使用に適合するとされ、またそのためにサポータの全体形状がX状とされているものと解される。

 他方、本件補正発明のヒートセルがX字型に隔離して配設されているのは、身体のねじりのような斜め方向の曲げに対して、ヒートセルが障害とならず、全体形状としては長方形に近い温熱身体ラップが、ねじりに追随して曲がりやすいことを意味し、これにより身体の様々な領域に順応することができるとされているものと解される。

 上記のとおり、参考例2のサポータが全体形状としてX状であることと、本件補正発明の全体形状としては長方形に近い身体温熱ラップにおいて、ヒートセルがX字型に隔離して配設されることは、X状ないしX字型といっても、その意義ないし機能は本質的に異なるものであり、またそれにより身体の適用可能な部位も異なることになる。
 このように、X状ないしX字型に関する両者の意義ないし機能が異なるのであるから、参考例2における、内部に電熱線が均一に布設されたサポータが全体形状としてX状にされている構成のうち、「X状」という技術事項のみを取り出し、本件補正発明の身体温熱ラップ内に存在するヒートセルの配設の形態に適用する動機付けは存在せず、引用発明1に参考例2を適用して、相違点2に係る構成とすることはできないといわざるを得ない。

 本件審決は、「使用者が装着している時、使用者の身体または各部位のさまざまな領域の運動に順応することは、当然に要求される事項」とした上、「そのような目的の配置として、X字型の配設は、従来周知」として、参考例2を挙げるが、参考例2をもって、上記周知技術ということはできない。そして、他に、上記事項が周知であることを認めるに足りる証拠はない。
 したがって、引用発明1に周知技術を適用して相違点2に係る構成を想到することが、当業者にとって容易であるとした本件審決の判断は、誤りといわなければならない。

6.考察
 本事案では、特許庁(審判)において周知技術と判断された技術(使用者の身体または各部位のさまざまな領域の運動に順応することを目的としたX字型の配設)が、裁判所においては周知技術でないと判断されました。
 そして、参考例2のサポータが全体形状としてX状であることと、本件補正発明の身体温熱ラップにおいてヒートセルがX字型に隔離して配設されることは、その意義ないし機能が本質的に異なるから、参考例2における内部に電熱線が均一に布設されたサポータが全体形状としてX状にされている構成のうち、「X状」という技術事項のみを取り出し、本件補正発明の身体温熱ラップ内に存在するヒートセルの配設の形態に適用する動機付けは存在しないと判断されました。
 このように、一見類似している技術であっても、その意義や機能が異なる場合がありますので、審査・審判等の実務において注意する必要があります。


弁理士 竹中謙史

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