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パリ条約に基づく部分優先の判断手法が示された裁判例の紹介

今般、知財高裁判決(令和元年(行ケ)第10132号)にて、基礎出願に対する新規事項を含む発明についてのパリ優先権(いわゆる部分優先)の効果や適用要件が示されました。部分優先の具体的な判断手法を示すものとして参考になるため、紹介します。

パリ優先権


以下のとおり、パリ条約第4条A(1)には、パリ条約加盟国の出願人が一定の期間中優先権を有することが規定されています。
ここでは、この第4条A(1)に規定される優先権を「パリ優先権」といいます。また、パリ優先権の主張の基礎とされた第一国出願を「基礎出願」、パリ優先権の主張を伴う後の出願を「優先権主張出願」といいます。
同条Bには、パリ優先権の主張の効果が規定されています。同条Bによれば、優先期間中にされた優先権主張出願は、他の出願や発明の公表など優先期間中に行われた行為によって不利な取扱いを受けないものとされています。
また、同条Fには、いわゆる複合優先及び部分優先が認められる旨が規定されています。

A.(1) いずれかの同盟国において正規に特許出願若しくは実用新案、意匠若しくは商標の登録出願をした者又はその承継人は、他の同盟国において出願することに関し、以下に定める期間中優先権を有する。
B. すなわち、A(1)に規定する期間の満了前に他の同盟国においてされた後の出願は、その間に行われた行為、例えば、他の出願、当該発明の公表又は実施、当該意匠に係る物品の販売、当該商標の使用等によつて不利な取扱いを受けないものとし、また、これらの行為は、第三者のいかなる権利又は使用の機能をも生じさせない。優先権の基礎となる最初の出願の日前に第三者が取得した権利に関しては、各同盟国の国内法令に定めるところによる。
F. いずれの同盟国も、特許出願人が2以上の優先権(2以上の国においてされた出願に基づくものを含む。)を主張することを理由として、又は優先権を主張して行つた特許出願が優先権の主張の基礎となる出願に含まれていなかつた構成部分を含むことを理由として、当該優先権を否認し、又は当該特許出願について拒絶の処分をすることができない。ただし、当該同盟国の法令上発明の単一性がある場合に限る。
優先権の主張の基礎となる出願に含まれていなかつた構成部分については、通常の条件に従い、後の出願が優先権を生じさせる。

日本国特許庁におけるパリ優先権の解釈


日本国特許庁の特許・実用新案審査基準(以下、単に「審査基準」ともいいます。)では、パリ優先権は、「新規性、進歩性等の判断に関し、第二国における特許出願について、第一国における出願の日に出願されたのと同様の取扱いを受ける権利」であると説明されています。つまり、パリ優先権の主張の効果は、新規性や進歩性等の特定の特許要件についての遡及効であると解釈されています。
また、審査基準には、優先権主張出願の請求項に係る発明に、基礎出願に開示された範囲を超える部分が含まれることになる場合は、その部分については、パリ優先権の主張の効果は認めらないと記載されています。逆にいえば、優先権主張出願の請求項に係る発明に、基礎出願に開示された範囲を超える部分が含まれる場合であっても、基礎出願で開示された範囲内の部分については、パリ優先権の主張の効果が認められると解釈することができます。


判決(令和元年(行ケ)第10132号)で示された部分優先の効果


(1) 経緯
本件特許に係る出願は、2011年6月23日を国際出願日とするPCT出願の分割出願です。当該PCT出願は、2010年11月5日になされた米国仮出願をパリ条約による優先権主張の基礎とするものです。
本件発明は、米国仮出願の出願書類に記載された発明(構成A)よりも上位概念の発明(構成D)として表現されていました。
なお、米国仮出願の後であってPCT出願の前の2011年3月29日に、甲1動画が投稿されました。

図

(2) 原告は次のような主張をしました。
本件発明は,①ピンが複数の溝を有する構成を含むこと,②ピンバーとベースが一体成型になっている構成を含むこと,③ピンバーをベースの溝ではなく,ベース上の凸部に嵌め込む方式の構成を含むこと,④ピンに,溝ではなく,ピンを貫く間隙を有する構成を含むこと,の4点において,本件米国仮出願にはない構成を含むからパリ優先権が否定され,その結果,甲1動画との関係で新規性,進歩性を欠き,無効である。

(3) この点について、裁判所は次のように判示しました。
しかしながら,本件発明が,その請求項の文言に照らし,原告が新たな構成であると主張する①ないし④の点を含まない構成,すなわち,本件米国仮出願の明細書に記載された実施例どおりの構成を含むことは明らかであるところ(この点は,原告も否定していないものと考えられる。),この構成は,1まとまりの完成した発明を構成しているのであって,①ないし④の構成が補充されて初めて発明として完成したものになるわけではない。このような場合,パリ条約4条Fによれば,パリ優先権を主張して行った特許出願が優先権の基礎となる出願に含まれていなかった構成部分を含むことを理由として,当該優先権を否認し,又は当該特許出願について拒絶の処分をすることはできず,ただ,基礎となる出願に含まれていなかった構成部分についてパリ優先権が否定されるのにとどまるのであるから,当該特許出願に係る特許を無効とするためには,単に,その特許が,パリ優先権の基礎となる出願に含まれていなかった構成部分を含むことが認められるだけでは足りず,当該構成部分が,引用発明に照らし新規性又は進歩性を欠くことが認められる必要があるというべきである。

つまり、本件発明に係る構成Dが、基礎出願に記載され1まとまりの完成した発明を構成している構成Aと、基礎出願に記載のない構成Cと、からなる場合(構成D=構成A+C)、本件発明が構成Cを含むことを理由に優先権主張出願の優先権は否認されず、構成Cに係る構成部分のみについて(つまり部分的に)優先権が否定されるのにとどまる、と判示されました。
その上で、優先権主張出願に係る特許を無効とするためには、その特許が構成Cを含むことが認められるだけでは足りず、構成Cが引用発明に照らし新規性又は進歩性を欠くことが認められる必要があると判示されました。

本件においては、上記①~④がそれぞれ独立した発明の構成部分となり得るものであり、引用発明に対する新規性及び進歩性は、それぞれの構成について別個に問題とする必要があると判断されました。
そして、甲1動画に係るツールが上記①~④のうち③の構成を有しているものと認められたものの、③の構成については基礎出願に含まれない構成であるとはいえないとして、原告の主張は認められませんでした。


弁理士:岩附 紘子

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