特許権、商標権、意匠権等の知的財産権の出願なら名古屋国際弁理士法人「新着情報」ページ

MENU

新着情報

新着情報NEWS

2026.08.03 国内知財情報

知的財産高等裁判所における裁判所調査官の役割と業務

知的財産高等裁判所における裁判所調査官の役割と業務

本記事は、日本弁理士会の会誌「パテント」に投稿した拙稿「知的財産高等裁判所における裁判所調査官の役割と業務」(パテント2026 Vol.79)を基に作成したものである。
 
 
 

1.はじめに

近年、生成AI等の先端技術の発達に伴い、知的財産権の活用が急速に進展し、その保護に関して司法の果たすべき役割がますます重要となっている。我が国の知的財産権訴訟制度において、裁判所調査官(以下「調査官」という。)は、技術的・専門的知見をもって裁判官の審理を補助する重要な役割を担っている。
 
知的財産高等裁判所(以下「知財高裁」という。)は、2022年10月に霞が関庁舎から中目黒の新庁舎へ移転し、「ビジネス・コート」として新たな段階を迎えた。筆者は、2022年10月から2025年9月までの3年間、知財高裁の調査官として勤務した。着任直後に中目黒庁舎への移転があり、霞が関庁舎では1週間程度しか勤務できなかったものの、両庁舎で勤務できたことは貴重な経験となった。
 
本記事では、知財高裁における調査官の役割と業務について、法的根拠、配置状況、具体的業務内容を詳説するとともに、筆者の実務経験に基づく執務環境や協働関係についても紹介する。なお、客観的な制度説明は2から5までの項目で行い、筆者の個人的所感については6の項目で述べることとする。制度に関する記述は、知財高裁が2025年2月に公表したパンフレット及び関連資料に基づく。
 
 
 

2.知財高裁の沿革とビジネス・コートへの移転

2-1.知財高裁の設立経緯

知財高裁は、平成17年4月1日に知的財産高等裁判所設置法に基づいて、東京高等裁判所の特別の支部として設置された。その目的は、我が国の経済社会において知的財産の活用が進展するのに伴い、その保護に関して司法の果たすべき役割がより重要なものとなっているとの現状を踏まえて、知的財産に関する事件についての裁判の一層の充実及び迅速化を図るため、裁判所の専門的処理体制を一層充実させることにあった。
 

 
 

2-2.知財高裁の組織構成

知財高裁は、第1部から第4部までの4つの通常部と、特別部(大合議部)で構成されている。各部は、部総括裁判官1名と陪席裁判官2名の合議体である。知財高裁所長は第1部の部総括裁判官を兼務しており、知財高裁全体では12名の裁判官(2025年10月現在)が配置されている。特別部は、第1部の部総括裁判官(知財高裁所長)を裁判長とし、第2部から第4部までの各部総括裁判官と、当該事件の主任裁判官の計5名で構成される。
 
 
 

2-3.中目黒庁舎への移転

令和4年10月、知財高裁は、東京・霞が関の庁舎から東京・中目黒の新庁舎へ移転し、東京地方裁判所の知的財産権部及び他の関係部署(商事部・倒産部)とともに、「ビジネス・コート」として装いを新たにした。
知財高裁設立から17年半を経て実現したこの移転は、以下の3つの目的を持つものである。
 
(1) ビジネスに関係する訴訟・手続の集約化と専門性の強化
知財高裁、東京地裁知財部、商事部、倒産部を一つの庁舎に集約することで、ビジネス関連訴訟の専門性を強化する体制が整えられた。
 
 
(2) ITツールの活用等による審理の迅速化
新庁舎では、最新のIT設備が整備され、ウェブ会議システムや電子文書提出システム等のデジタル技術を積極的に活用した審理が可能となった。
 
 
(3) 国際的な情報発信の推進とグローバルな視野を持った裁判の実現
ビジネス・コートは、国際的な知財紛争に対応するための情報発信の拠点としても位置づけられている。知財高裁は、毎年「国際知財司法シンポジウム(JSIP: Judicial Symposium on Intellectual Property)」を開催し、海外から法曹関係者等を招き、我が国の知財司法制度に関する情報を国内外に発信するとともに、海外諸国に関する最新の情報を提供している。
 
中目黒の新庁舎は、目黒川沿いに位置し、春には桜並木に囲まれる景観の良い場所にある。庁舎は地上5階、地下1階建てで、知財高裁は上層階に配置され、充実した法廷設備を備えている。
 
 
 

2-4.デジタル化の推進

知財高裁では、裁判手続のデジタル化に積極的に取り組んでいる。
 
令和2年2月からウェブ会議を利用した争点整理手続を開始し、令和4年6月から民事裁判書類電子提出システム(通称「mints」)を導入、令和6年3月からはウェブ会議を利用した口頭弁論手続も開始した。さらに、令和4年5月に成立した民事訴訟法等の一部を改正する法律により、訴えの提起から判決までの手続をオンライン化するための規定(訴状等のオンライン提出、訴訟記録の電子化等の規定)が設けられた。同法は令和8年5月までに施行されることとなっており、知財高裁はこれを見据えた訴訟プラクティスの見直しや審理運営の改善を行っている。
 

このようなデジタル化の推進により、調査官の業務においても、電子資料の活用等、新たな業務形態が定着しつつある。
 
 
 

3.裁判所調査官制度の法的根拠と趣旨

3-1.裁判所法第57条の規定

裁判所調査官制度の法的根拠は、裁判所法第57条である。同条第1項は「最高裁判所、各高等裁判所及び各地方裁判所に裁判所調査官を置く」と定め、同条第2項は「裁判所調査官は、裁判官の命を受けて、事件(地方裁判所においては、知的財産又は租税に関する事件に限る。)の審理及び裁判に関して必要な調査その他他の法律において定める事務をつかさどる」と規定している。
 
知財関係の調査官は、専門的・技術的知識を必要とする事件の審理の充実・迅速化を図るために配置されており、その存在意義は極めて高い。
 

 
 

3-2.知財高裁における調査官の役割

知財高裁における調査官の主な役割は、自然科学及び特許法等に関する専門的知識を用いて、裁判官の技術的な理解を補助することである。
例えば、以下のような役割を担う。
① 事件を理解するための前提となる技術について説明する。
② 当事者の主張の技術的な意味を補足説明する。
③ 技術的に違和感のない論理が構築されるように補助する。
 
 
 

3-3.裁判所の弁論主義と特許庁の職権主義

裁判所における訴訟手続と特許庁における審判手続は、その基本原則において大きな違いがある。
 
裁判所の訴訟手続は弁論主義を採用している。弁論主義とは、判決の基礎となる事実や証拠の収集・提出を当事者の権能と責任に委ねる原則である。裁判所は、当事者が主張しない事実を判決の基礎とすることができず、また当事者が申し出ない証拠を職権で調べることは原則としてできない。これは、私人間の権利義務に関する紛争については、当事者の意思を尊重し、当事者に訴訟追行の主導権を与えるべきであるとの考えに基づくものである。
 
これに対し、特許庁における審判手続は職権主義を採用している。職権主義とは、審判官が職権で事実の調査や証拠の収集を行うことができる原則である。特許庁の審判官は、当事者の主張にとらわれず、職権で先行技術文献を調査し、当事者が提出していない証拠を審理の基礎とすることもできる。これは、特許権等の産業財産権が社会全体に影響を及ぼす公益性の高い権利であり、その有効性の判断においては、真実の発見が重視されるべきであるとの考えに基づくものである。
 
調査官は、審決取消訴訟において、特許庁での審判手続と裁判所での訴訟手続の双方の特性を理解した上で、裁判官を補佐する役割を担っている。
 
 
 

3-4.裁判官と調査官の違い

裁判官と調査官は、いずれも知的財産訴訟において重要な役割を担っているが、その性質や役割には明確な違いがある。
 
裁判官は、法律のジェネラリストである。裁判官は、知的財産訴訟に限らず、民事、刑事、家事など様々な分野の事件を扱うことができる能力を有している。裁判官の強みは、事実認定や法律解釈における高度な能力、論理的思考力、そして様々な分野の事件を扱った経験に基づく幅広い視野にある。
 
これに対し、調査官は、技術や知的財産法のスペシャリストである。調査官は、特定の技術分野(機械、電気、化学等)に関する深い専門知識を有し、また特許法、実用新案法等の知的財産関連法規についても豊富な実務経験を有している。調査官の強みは、技術的事項の理解の深さ、技術常識に関する知見、そして特許庁での審査・審判実務の経験に基づく実務的感覚にある。
 
このように、裁判官と調査官は、それぞれ異なる専門性と経験を持ち、互いに補完し合う関係にある。裁判官の法律的な専門性と調査官の技術的な専門性が組み合わさることで、知的財産訴訟における適正かつ迅速な紛争解決が実現されている。
 
 
 

3-5.関与する事件の範囲

知財高裁の調査官が関与する事件は、原則として、特許、実用新案等の技術型の知的財産権関係訴訟の全件である。最も多く関与するのは審決取消訴訟事件であり、次いで特許権侵害訴訟控訴事件である。商標権や著作権等の非技術型の訴訟には原則として関与しないが、プログラムの著作権のように技術的な問題が関連する場合には関与することもある。
 
 
 

4.調査官の法的地位と構成

4-1.法的地位と任期

調査官は、裁判所に所属する常勤の職員であり、その法的地位は以下のとおりである。
 
 
(1) 身分
国家公務員法、一般職の職員の給与に関する法律等、行政に属する国家公務員と同じ法律が適用される。
 
(2) 任期
任期の定めはないが、通常3年間とされている。調査官は、一度に入れ替わるのではなく、少しずつ入れ替わるため、継続性と専門性が維持される。
 
(3) 兼業禁止
任期期間中は、国家公務員として兼業が禁止される。
 
 
 

4-2.給源と構成

知財関係の調査官は、特許庁審判官出身者10名と弁理士出身者1名で構成されている。
 
特許庁審判官出身の調査官は、特許庁を一度退職して裁判所に勤務し、任期満了後に審判官として再任されて特許庁に戻るという手続をとる。給与、勤務時間、休暇等については、一般の国家公務員と同じ法律が適用される。
 
弁理士は、2002年4月から東京高裁・知財高裁で、2003年4月から東京地裁で調査官に就任するようになった。弁理士は公務員試験を経ることなく任官できる。
 
 
 

4-3.弁理士出身の調査官の弁理士登録の扱い

弁理士が調査官に就任する場合、弁理士登録を抹消する必要はない。調査官在任中も弁理士としての登録は維持されるが、弁理士業務を行うことはできず、全ての事件の代理人を辞任しなければならない。調査官在任期間中は、日本弁理士会への会費が免除される。
 
弁理士は、5年間で70単位(1単位は1時間に相当。)の研修を受けることが義務付けられているが、調査官在任期間に相当する分の単位は免除される。ただし、倫理研修については、調査官在任期間中であっても受講する必要がある。
 
 
 

4-4.弁理士出身の調査官の特性

弁理士出身の調査官は、特許庁審判官出身の調査官とは異なる特性と経験を有している。
 
弁理士は、特許出願の代理業務を通じて、発明の発掘から明細書作成、審査対応、そして権利化に至るまでの一連のプロセスに深く関与してきた経験を有する。また、侵害訴訟や審決取消訴訟においては、依頼者である企業や発明者の代理人として、訴訟戦略の立案や準備書面の作成に携わってきた経験を有する。このため、弁理士出身の調査官は、特許権者や代理人の視点、すなわち「訴訟の当事者側の視点」を理解しやすいという特性がある。
 
これに対し、特許庁審判官出身の調査官は、審査官や審判官として、特許要件の判断や審決の起案を行ってきた経験を有している。このため、特許庁審判官出身の調査官は、審査・審判実務における判断基準や審決の論理構成に精通しており、「審査・審判の実務的感覚」を持っているという特性がある。
 
知財高裁において、弁理士出身の調査官と特許庁審判官出身の調査官が協働することで、訴訟の当事者側の視点と審査・審判の実務的感覚の双方が調和され、より多角的な検討が可能となっている。特に、弁理士出身の調査官は、訴訟における当事者の主張の背景や意図を理解しやすく、また明細書の記載の解釈において、出願人の意図を推測することにも長けている。一方、特許庁審判官出身の調査官は、審決の論理構成や特許庁の判断基準を的確に把握し、審決取消訴訟における争点を明確化することに長けている。
 
このように、異なる背景を持つ調査官が協働することで、知財高裁における調査官業務の質が高められている。
 
 
 

4-5.配置状況

知財関係の調査官は、全国に計21名しかおらず、裁判所内でも稀有な存在である。2025年10月現在の配置状況は次のとおりである。
 
知財高裁:11名(機械4名、電気3名、化学4名)
東京地裁: 7名(機械3名、電気2名、化学2名)
大阪地裁: 3名(機械1名、電気1名、化学1名)
 
知財高裁及び東京地裁には、それぞれ弁理士の調査官が1名ずつ配置されている。知財高裁では機械グループの1名、東京地裁では化学グループの1名が弁理士枠である。調査官の任期は3年であるから、知財高裁及び東京地裁のそれぞれにおいて、3年間で1名の採用機会しかないこととなり、弁理士から調査官への道は極めて狭き門となっている。
 
弁理士の調査官は、弁理士会での選考及び最高裁判所での面接を経て任命される。
 

 
 

5.知財高裁における具体的業務内容

知財高裁の調査官の業務は、裁判官の審理を技術的に補佐するための様々な事務を含む。以下、審決取消訴訟を中心に、その具体的業務内容を述べる。
 
 
 

5-1.技術説明資料の作成

事件が配てんされると、調査官は、主任裁判官との打合せに用いる技術説明資料を作成する。資料は、一覧性の高いA3サイズで作成されることが多い。資料には、本件発明の概要、引用発明の概要、本件審決の要旨の他、事件の理解に必要となる技術事項の説明などを含める。裁判官が理解しやすいように、図面に色を塗る、用語の文字色と図面の色を対応させるなどの工夫をする。
 

 
 

5-2.期日への立会い

調査官は、弁論準備手続や口頭弁論等の期日に立ち会う。弁論準備手続においては、主任裁判官の隣に座り、口頭弁論期日においては、通常、法廷の傍聴席に座る。ただし、口頭弁論期日において、当事者からの技術説明が予定されている場合等には、法壇に上がることもある。
 
 
 

5-3.調査報告書の作成

当事者双方の主張が出尽くした段階で、主任裁判官の指示に基づき、調査報告書を作成する。調査報告書には、調査官の見解(審決を取り消すべきか否か)及びその理由を記載する。
 

 
 

6.筆者の調査官経験―執務環境、協働関係、そして得られた知見―

ここでは、筆者が2022年10月から2025年9月まで知財高裁調査官として勤務した経験に基づき、調査官の執務環境や裁判官・調査官との協働関係について述べる。これらは筆者の個人的所感を含むものである。
 
 
 

6-1.調査官室の環境

知財高裁では、11名の調査官が同じ調査官室で業務を行っている。調査官室には、十分な執務スペースが確保されており、各調査官のデスクのほか、会議用のテーブルも設置されている。
 
調査官室の雰囲気は、非常に穏やかで協力的である。各自が担当する事件について集中して作業を進める一方で、必要に応じて気軽に質問や相談ができる環境が整っている。異なる技術分野(機械、電気、化学)の調査官が同じ部屋で執務することで、技術分野を超えた幅広い知見に触れる機会にも恵まれる。
 
また、陪席裁判官が調査官室にいらっしゃることもあり、事件の打合せだけでなく、日常的な会話を通じて裁判官と調査官の距離が近い環境であった。このような物理的・心理的に開かれた空間が、円滑なコミュニケーションと協働を支えていた。
 
 
 

6-2.裁判官との協働

知財高裁の裁判官は、極めて優秀な方々であり、技術に関する理解力も高い。事件の打合せの際には、調査官の説明に真摯に耳を傾けられ、技術的な理解を深めるための質問を積極的にされる。調査官の見解を尊重しつつも、法律的な観点から鋭い質問をされることもあり、そのような議論を通じて多くのことを学ぶことができた。裁判官と調査官の協働により、技術と法律の両面から事件を深く検討することが可能となっている。
 
 
 

6-3.調査官同士の協働

知財高裁の調査官は、特許庁審判官出身者10名と弁理士出身者1名で構成されている。調査官は各自が担当する事件について個別に調査・報告を行うが、技術的に難解な事件や法律的な解釈が問題となる事件については、他の調査官に意見を求めて議論することも多い。
 
筆者は弁理士出身の調査官として、当事者代理人の視点から事件を捉える傾向があったが、特許庁審判官出身の調査官との議論を通じて、審査・審判における判断の視座や、公益的観点からの特許要件の考え方を学ぶことができた。逆に、筆者の明細書作成や訴訟実務の経験が、他の調査官にとっても参考になったようで、相互補完的な協働関係を築くことができた。
 
このような調査官同士の協働は、個々の調査官の知見を深めるだけでなく、調査官業務全体の質を高める上でも極めて有益であった。
 
 
 

6-4.事件外での交流

知財高裁では、事件の審理だけでなく、各種委員会活動やJSIP(国際知財司法シンポジウム)の準備等のための会合が定期的に開催されており、調査官も裁判官とご一緒する機会が多い。JSIPの準備では、プログラム構成の検討や海外ゲストへの連絡等について、裁判官と調査官が協力して準備を行う。
 
このような事件外での交流を通じて、裁判官と調査官の相互理解が深まり、日常的なコミュニケーションが円滑になる。筆者自身、こうした活動を通じて多くの裁判官の方々と親しくお話しする機会を得ることができた。
 
 
 

6-5.調査官経験の意義と今後への期待

3年間の調査官経験を振り返ると、弁理士実務では得難い多くの知見を得ることができた。第一に、裁判官の思考プロセスや判決起案の過程を間近で学ぶことで、訴訟実務に対する理解が格段に深まった。第二に、特許庁審判官出身の調査官との日々の議論を通じて、審判実務の詳細や審決の背景にある考え方を学ぶことができた。第三に、能力的にも人格的にも優れた裁判官や他の調査官の仕事の進め方を日常的に観察し、その姿勢や手法から多くを学ぶことができた。緻密な事実認定、論理的な思考の組み立て方、限られた時間での効率的な業務遂行など、プロフェッショナルとしての仕事の在り方について、身をもって学ぶ貴重な機会となった。
 
また、裁判所という公的機関の内部で、司法の一翼を担う経験は、弁理士としてのキャリアに新たな次元を加えるものであった。調査官として関与した事件の判決が、今後の知財実務の指針となり得ることを考えると、その責任の重さと同時に、やりがいの大きさを実感した。
 
弁理士が調査官に就任する機会は、前述のとおり、知財高裁及び東京地裁のそれぞれにおいて、3年間で1名という極めて限られたものである。また、任期中は弁理士業務を完全に停止しなければならないという制約もあり、応募をためらう要因となっている。しかしながら、筆者の経験に照らせば、この3年間で得られた知見と経験は、その後の弁理士実務に計り知れない価値をもたらすものであった。
 
知的財産訴訟の専門性が一層高まる中、裁判所と弁理士会との協働関係の重要性は増している。熱意と専門性を有する弁理士が調査官に挑戦することは、個人のキャリア発展のみならず、知財司法制度全体の充実にも寄与するものである。今後、より多くの弁理士が調査官への道を検討し、この貴重な機会を活かすことを期待したい。
 
 
 

7.おわりに

知財高裁の調査官は、技術的・専門的知見に基づいて裁判官を補助する専門職として、知的財産訴訟における適正かつ迅速な紛争解決に不可欠な役割を果たしている。本記事では、調査官制度の法的根拠、地位と構成、具体的業務内容等について概観した。
 
中目黒のビジネス・コートへの移転は、知的財産訴訟に関する司法機能を一か所に集約し、専門性の向上と効率化を実現する画期的な取組みである。また、ウェブ会議システムの活用など訴訟手続のデジタル化も着実に進展しており、遠隔地の専門家との協働や当事者の利便性向上に寄与している。
 
今後、生成AI等の新技術に関わる知的財産紛争の増加が予想される中、調査官には一層高度な専門性と柔軟な対応力が求められる。専門委員との協働関係を深化させつつ、継続的な研鑽を通じて専門性を維持・向上させることが重要である。また、調査官の採用・育成方法や専門分野の配置バランスなど、制度面での検討も継続的に行われるべきであろう。
 
筆者自身の調査官経験については6の項目で述べたとおりであるが、この制度が今後も知的財産訴訟制度の根幹として機能し続けることを期待したい。
 
 
弁理士 竹中 謙史
名古屋国際弁理士法人

名古屋国際弁理士法人 名古屋本部

〒460-0003 愛知県名古屋市中区錦
1-11-11 名古屋インターシティ16F

052-203-1001 9:00〜18:00(定休日:土日・祝祭日)

新規のお客様のお問い合わせは、お問い合わせフォームからお願いします。
お電話では専門の担当者へはお繋ぎできません。

名古屋本部へのアクセス

名古屋国際弁理士法人 東京支店

〒104-0061 東京都中央区銀座8-17-5
THE HUB 銀座OCT 407号室

東京支店へのアクセス